短い時間で粉末状の合成洗剤をつくる

(付録)


 高級アルコール系洗剤(硫酸水素アルキルナトリウム)は、日常的に使われている合成洗剤の一つである。それを市販品に近い外見をもつ粉末状で合成し使用してみることは、物質への関心を増すものであろう。

 硫酸水素アルキルをアルカリで中和する反応は、高級アルコール系洗剤の合成法として、工業的にも行われている。実験室的には、硫酸モノエステルの中和は6mo1/1の水酸化ナトリウム水溶液で行うのが普通である。この方法では、生成物はべ一スト状であり、これを乾燥して粉末状にするには時間がかかるので、1回の授業時間内に粉末状の生成物を得ることはできない。この中和を炭酸水素ナトリウムで行うと、ぺ一スト状の中和生成物が、5-15分程度でさらさらの粉末になる。


粉末状硫酸ドデシルナトリウムの合成法

 C
12H25OH + H2SO4 →   C12H25OSO3H + H2O

 C
12H25OSO3H + NaHCO3  →  C12H25OSO3Na + CO2 + H2O

 乾いた 100 ml ビーカーにラウリルアルコール(1-ドデカノ−ル) 2.5gをはかり取る。濃硫酸を 2.2g(体積では 1.2 ml 程度)加える。水浴中、約 25-30℃で 15 分間、ガラス棒などでかき混ぜる。炭酸水素ナトリウム 4.5 gを反応物に加え、沸騰水浴中で5分間かき混ぜる。さらに室温でかき混ぜる。ただし、氷水で冷やしながらかき混ぜると固化が速まる。硬度が増してきたら、香料を1滴加え、白いサラサラ粉末になるまでかき混ぜる。

 
 濃硫酸とラウリルアルコールを反応させる温度は、室温でもよいが、夏期の温度に揃えると季節によらず実験時間がほぼ一定になる。但し、反応温度が高過ぎると、中和後のぺ一スト状のものが粉末になりにくい。粉末にならないこともある。硫酸のジエステルができるためと推定される。

 中和に用いる炭酸水素ナトリウムの量は過剰である。炭酸水素ナトリウムの量が当量付近だと、粉末になりにくい。炭酸水素ナトリウムの量が過剰であるため、合成した洗剤の水溶液のpHは7.5-8.5である。しかし、手に濃厚溶液を付けても強アルカリ性水溶液の場合に見られるぬるぬるした感じは全くない。
 温水にはよく溶けるが冷水へは溶けにくい。この洗剤の洗浄力は市販の粉末洗剤には劣る、と評価した学生と、市販品にそれほど劣らない、と評価した学生の数はほぼ同数であった。香料としては、純粋な有香試薬よりも香粧品の方が好評であった。


 合成した洗剤の外見は、全くと言っていいほど市販品と変わらない。そのため、学生、生徒は自分で合成洗剤を合成したとの実感をもつことができる。全実験時間は40分程度である。
                         (化学と教育,42, 856 (1994).よりの抜粋)


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